大判例

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名古屋地方裁判所 昭和63年(モ)1069号 判決

申請人 ヒューマンライフ株式会社

右代表者代表取締役 松村章司

右訴訟代理人弁護士 林光佑

右同 堀龍之

右同 大津千明

被申請人 株式会社ほっかほっか亭総本部

右代表者代表取締役 田淵道行

右訴訟代理人弁護士 高田昌男

右同 鈴木俊美

主文

一  名古屋地方裁判所昭和六三年(ヨ)第一二一六号仮の地位を定める仮処分申請事件について、同裁判所が昭和六三年一一月二二日なした仮処分決定はこれを取消す。

二  申請人の請求をいずれも却下する。

三  訴訟費用は、申請人の負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  主文一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を認可する。

2  訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文一、二、三項同旨。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  被保全権利

(一)(1) 申請人は、弁当店を経営し、さらに被申請人との間の後記地区本部契約に基づき愛知県下及び岐阜県下におけるフランチャイズ権を独占的に有し、その権限の下で契約を締結した加盟弁当店(以下「加盟店」という。)を管理し、統括しているものであり、その収入源は、加盟店からのロイヤルティー収入と加盟店に対する原材料等の供給斡旋等によるリベート収入などを主なものとする。

(2) 被申請人は、弁当店の経営において「ほっかほっか亭」の商標権と持ち帰り弁当の製造販売業務のノウハウを基としてフランチャイズ組織を形成する管理事業者であり、その収入源は、各地区本部からのライセンス料、ノウハウ料及び毎月のロイヤルティーが主なものである。

(二) 申請人は、被申請人との間で、昭和五八年一二月二一日、次の約定により申請人を被申請人の地区本部とする旨のほっかほっか亭地区本部契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 被申請人は、申請人に対し、双方が了解したテリトリー内で本件契約に従いほっかほっか亭地区本部を設立することを許可する。

同時にテリトリー内に展開する直営店に、ほっかほっか亭の名称とマークを使用させ、営業させる権利、若しくはテリトリー内の加盟店希望者に対し、個別にフランチャイズ権を与える権利を与える。

(2) 申請人は、被申請人に対し、ライセンス料として一〇〇〇万円を支払う。

(3) 申請人の、地区本部としてのテリトリーを愛知県下、岐阜県下及び三重県下とする(ただし、昭和五九年五月二三日付けで三重県下を解除した。)。

(4) 本件契約の有効期間は、本件契約の効力の発生の日から向こう五ヶ年とし、右契約の更新については、契約期間満了の一八〇日前に本件契約当事者双方より特別の申し出のない限り、自動的に更新するものとする。

(5) 本件契約の終結に伴い、申請人は、申請人とほっかほっか亭システムを何らかの形で関係付けるすべてのトレードマーク、サービスマーク、シンボル、トレードネームの使用を停止し、本件契約終結と同時に申請人の費用において取り片付けるものとする。

(6) 本件契約の終了時において、申請人の加盟店に対する権利は、被申請人において自動的に継承するものとする。

(三) 被申請人は、申請人に対し、昭和六三年六月一六日付け内容証明郵便によって、同年一二月二〇日に本件契約の有効期間が切れるとして、本件契約の更新拒絶の申し出をなし、申請人が同年一二月二一日以降地区本部でないとの前提で、申請人の加盟店に対し、以下の働きかけをしている。

(1) 申請人が契約違反者であることを殊更に強調している。

(2) 申請人が弁当マンの名称で謀反を企てたと公言している。

(3) 申請人が「南蛮弁当で不当の利を得ている。」「米につき良米にすると偽り、キロ当たり三〇万円詐取している。」などと虚言をもって加盟店を動揺させている。

(4) 被申請人は、「昭和六三年一二月二〇日過ぎには逆提訴して、申請人の息の根を止める。また申請人個人の財産も差押える。」「申請人の直営店の近くに店舗を設けて申請人の店を潰す。」などとうそぶき、申請人がいずれ被申請人により倒産させられる運命にあるものと強弁している。

(5) 被申請人は、「近日中に仮事務所を設けて活動を始める。」「加盟店は総本部と契約をし直すことになり加盟店はこれに従わねば商売ができない。」などと述べ、加盟店への強引な引き抜き策の実行を表明している。

2  保全の必要性

(一) 申請人は、被申請人と本件契約をなすに際し、一〇〇〇万円のライセンス料を支払い、ノウハウ使用料として加盟店一店舗につき開設時二〇万円(支店につき一〇万円)、直営店と加盟店のそれぞれにつき一か月一万五〇〇〇円ずつを納付し続け、現在直営店九店を含め八四店舗の加盟店を有するに至っている。その間、加盟店の拡大育成のための広告業務費や指導員の配置、取り扱い商品の取りまとめ、集金等業務のための人的物的設備に多大の資本を投下してきた。

(二) ところが、昭和六三年一二月二〇日をもって本件契約における地区本部としての地位が喪失されるときは、申請人は企業としての存続はもはや期し得なくなるとともに、同日以降未確定な地位のままにあっては、傘下の加盟店はいずれにロイヤルティーを支払い、いずれに指導を求め、頼ればよいのか大混乱を生じ加盟店組織の崩壊が数か月ならずして起きることも明らかである。

(三) よって、申請人は、加盟店との継続的権利関係において著しく損害を蒙り、かつ現在すでに進行しつつある被申請人の急迫した侵害行為により回復し難い事態に陥ることは明らかである。

3  以上により、申請人の本件契約に基づく権利を保全するため仮の地位を定める必要があるので、本件仮処分の申請に及んだ。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1の(一)、(二)を認める。

2  同1の(三)のうち、被申請人が、申請人主張の通り、更新拒絶の申し出をしたことは認め、その余は否認する。

3(一)  同2の(一)は否認する。一〇〇〇万円のライセンス料は三重県をも含むものであり、申請人はいくつもの加盟店の開設を被申請人に隠し続け、ノウハウ料を被申請人に支払わずにごまかし続けていた。

(二) 同2の(二)は否認する。申請人が、本件契約期間満了で失われる契約上の地位に感情的、情緒的に固執しているから加盟店に混乱が起きているのであり、被申請人との引き継ぎを円滑にしていれば全く問題は起きないものである。

(三) 同2の(三)は否認する。

三  抗弁

1(一)  本件契約には、契約の有効期間が右契約の効力の発生の日から向こう五ヶ年とし、右契約の更新については、契約期間満了の一八〇日前に本件契約当事者双方より特別の申し出のない限り、自動的に更新するものとする旨の定めがある。

(二) 被申請人は、申請人に対し、昭和六三年六月一六日付け内容証明郵便によって、同年一二月二〇日に本件契約の有効期間が切れるとして、本件契約の更新拒絶の申し出をなした。

(三) よって、本件契約は昭和六三年一二月二〇日の経過とともに終了した。

2(一)  申請人は、店舗の経営主体が変更し、新たにフランチャイズ加盟店契約を締結した場合に、被申請人に対し、支払うべきノウハウ使用料合計三四〇万円を支払っておらず(別表(二)参照)、債務不履行である。ノウハウ使用料は、本件契約のごときサブフランチャイズ契約上不可欠の対価であり、その支払義務は最も重大であり、かかる義務を怠ることは致命的な債務不履行である。また、もし右の債務不履行が申請人の過失によるものとしても、サブフランチャイザーとしては、最も基本的な店舗管理能力が欠如していることになる。

(二) 被申請人は、申請人に対し、昭和六三年一〇月一七日の当裁判所昭和六三年(ヨ)第一二一六号仮処分申請事件の本件審尋期日において右債務不履行を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をした。右債務不履行は、被申請人と申請人との信頼関係を決定的に破壊する行為であるから催告は不要である。

(三) よって、本件契約は、申請人の債務不履行に基づき、同年一〇月一七日解除された。

四  抗弁に対する認否及び主張

1(一)  抗弁1の(一)、(二)は認め、同(三)は否認する。

(二) 右更新拒絶は、以下の理由で無効である。

(1) 本件契約九条二項の文意は、申請人と被申請人の双方の更新しない旨の合意が必要であり、契約当事者の一方から一方的に更新拒絶できるとの内容ではない。また、「特別の申し出」とは、互いに更新拒絶をせざるを得ないほどの特別な客観的事由の存在することが必要である旨予定されていたことを示している。そして、本件は右要件に該当しない。

(2) 本件契約は、いわゆるフランチャイズ契約という申請人にとり重大な企業利益や危険を伴う継続的契約関係である。

申請人は、地区本部になって以来懸命な努力を重ねた結果、今日八四店舗を傘下に収めるに至ったが、本件契約の更新拒絶により一方的に契約を終了させられるとすれば、申請人の事業体としての存在は無に帰して、それまでに投下した諸設備、諸経費や努力の集積は無価値となって債務のみ残存し、また経営規模に応じて雇用してきた従業員はその職場を失い広告宣伝の努力も灰塵に帰する。さらに、本件契約一一条により多大な原状回復費用まで負担させられることになる。他方、被申請人は、本件契約一一条により申請人が独自の経営努力と投資によって獲得育成してきた加盟店等をなんの代償もないまま承継し膨大な利益を受けることになり、極めて不公平かつ不合理な結果となる。

従って、被申請人からの一方的な更新拒絶が認められるのは、申請人が本件契約終了の不利益を蒙ってもやむを得ないほどの背信的事由等のある場合に限るべきところ、右事由は存在しない。

2(一)  抗弁2の(一)のうち、加盟店料のうち、報告済で請求手続の欠如のもの、未報告で一〇月一日報告のもの、オーナー変更で加盟店変更でないもの及び近時変更で請求期限の未到来のものの合計が三四〇万円となることは認めるが、その余は否認する。

(二) 被申請人と申請人の支払関係は、被申請人が毎月末の締め切りで内訳を示して申請人に請求し、これを申請人が振り込み送金する方法で行っているところ、そのうち三例については申請人の事務上のミスによる被申請人に対する報告洩れであり、発見した直後の昭和六三年一〇月一日、追加報告した(合計六〇万円)。また一〇例については被申請人からの月末請求の措置がなされなかったため、申請人の支払措置が延びているものである(合計一三〇万円)。その余は、経営主体変更に当たらないもの(六例)及びまだ弁済期未到来のもの(二例)である(別表(一)参照)。右事由を理由に催告なしに本件契約を解除することは不当である。

第三《証拠省略》

理由

一  申請の理由1の(一)の(1)、(2)、(二)及び(三)のうち、被申請人が、更新拒絶により申請人との本件契約が終了したと主張していることは当事者間に争いない。

二1  本件契約において、契約の有効期間が右契約の効力発生の日から向こう五ヶ年と定められていることは、前記の通り当事者間に争いない。

2  本件契約のように、有効期間が予め定められているフランチャイズ契約においては、特に契約の更新の制限等について当事者の特約がなく、または更新を拒絶して契約を終了させることが公序良俗や信義則に反する等の特段の事情がない限り、期間の満了とともに終了するものと解するのが相当である。

3  けだし、本来私人間の契約の内容は、公序良俗に反しない限り、自由に定められるべきものであり、期間に関する定めもその例外ではないし、他の継続的契約の場合を見ても、契約関係の維持が図るべき要請の強い雇用契約、賃貸借契約、代理商契約等においても、期間の定めがある場合について、当然契約が終了することを前提とした規定があり、更新拒絶について制限を定めた借地、借家契約においても、賃貸人が更新拒絶できる要件を法定して、法的安定性を最小限維持しようとしているのであり、フランチャイズ契約についてのみ、なんら法律の定めがないのに、契約期間が定まっていない場合や契約期間中の解約と異なり、更新拒絶という契約の終了事由について制限をすることはできないからである。

4  申請人は、フランチャイズ契約の更新拒絶によってサブフランチャイザーが著しい打撃を蒙ることを主たる理由とし、右契約が原則として無期限であるとし、期間の定めがあっても、更新拒絶が認められるのは、相手方に右契約終了の不利益を蒙ってもやむを得ないほどの背信的事由等のある場合に限るべきであると主張するが、右は前記の通り、法律上の根拠を欠くものであるだけでなく、その理由は専らサブフランチャイザーである申請人側からのものであり、かつ右のように解すると、更新拒絶につき、フランチャイザー側のみならず、サブフランチャイザー側も右事由のない限り永久に契約を続けなければならないことになり、仮にフランチャイザー側のみが右の制約を受けるものと解するとすれば、フランチャイザー側が更新拒絶につき、債務不履行による契約解除の場合以上に厳しい要件を課されることになり、他方サブフランチャイザー側に不当に有利な結果をもたらすものであって衡平を欠くことになるから、右主張は採用できない。

三1  被申請人が申請人に対し、昭和六三年六月一六日付け内容証明郵便によって、同年一二月二〇日に本件契約の有効期間が切れるとして、右契約の更新拒絶の申し出をしたことは当事者間に争いない。

2(一)  本件契約に、契約の更新につき、契約期間満了の一八〇日前に本件契約当事者双方より特別の申し出のない限り自動的に更新する旨の定めがあることは、前記の通り、当事者間に争いない。

(二)  右の定めは、本件契約の有効期間を五年間とするが、右契約期間満了の一八〇日前に契約当事者である申請人又は被申請人のいずれかが、更新拒絶の意思表示等特別の申し出をしない限り、契約が自動的に更新する趣旨であると認められる。

(三)  申請人は、右契約条項の文意は、契約当事者双方がともに更新をしない旨の行為をしない限り、右契約が自動的に更新されるとの趣旨であり、かつ互いに更新拒絶をせざるを得ないほどの特別な客観的事由の存在が必要であると主張するが、文理上もそのように解することができないのみならず、右のように解すれば、当事者の合意がない限り、永久的に契約を継続せざるを得ないこととなり、同一条文で特に契約の有効期間を約定した意味をなくしてしまうことにもなり、しかも当事者が契約を終了させることを合意しても、更新拒絶について特別の事由が存在しなければ、契約を終了させることができないという理解し難い定めをしたことになるから、右主張のように解することはできない。

3  更に、被申請人の右更新拒絶が公序良俗や信義則に反するとの疎明もない。

四  そうとすれば、本件契約は、その有効期間が満了した昭和六三年一二月二二日をもって終了したものと認められる。

五  よって、申請人の主張する被保全権利はその余を判断するまでもなく、疎明がなく本件仮処分申請は理由がないから、これを認容した本件決定を取消したうえ、申請人の申請を却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用のうえ主文の通り判決する。

(裁判官 福井欣也)

〈以下省略〉

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